おそらくあなたは特殊車両通行許可というものを初めて聞いたか、あるいはなんとなくきいたことはあるけど実際に自分がとることになるとは思わなかったと思っているのかもしれません。
特殊車両通行許可はマイナーな許可なのですが、実際には運送業・建設業では知る人ぞ知る重要な許可で、工事現場などではこの許可がないと現場に入れなかったりすることもあるのです。
また、コンプライアンス(企業が守るべき法令順守)の観点からも東京オリンピックが近づいている背景上、国の制度としても取り締まりが厳しくなる一方なので、知らなかったでは済まない許可になりつつあるといってもいいでしょう。
私は東京港区で行政書士事務所を運営しています。道路法が得意で特殊車両通行許可を年間で100件以上、一つの不許可もなく許可を取得しています。
クライアントは幅広く、大手企業から一人だけの企業まで幅広くこの許可と向き合っています。その経験をもとに、この不思議な「特殊車両通行許可」をできる限りわかりやすく皆さんにお伝えしようと思います。
*担当者様などで許可に関する不安を解消するために、まずはこの記事をざっくりと呼んでもらい、そのうえで
特殊車両通行許可の条件|”守りたくないからとらない”は一番ダメ!
を読んでいただくとより一層理解が深まります。
そもそも、と特殊車両通行許可って何?
”特殊車両”とは?
特殊というからには普通ではないのですが、では何が普通でないと”特殊車両”なのでしょうか?
いわゆる車(車両)は普通車両と特殊車両に分かれていて、これは単純に大きさや重さに基準を設けてその基準を超えたら普通ではない=特殊ということになります。
その大きさのことを”一般的制限値”といいます。
制限令についての基準
車両の諸元 | 一般制限値 |
---|---|
幅 | 2.5メートル |
長さ | 12.0メートル |
高さ | 3.8メートル |
重さ(総重量) | 高速・指定道路・・・25.0トン その他の道路 ・・・20.0トン |
軸重 | 10.0トン |
隣接軸重 | 隣り合う車軸の軸距が1.8メートル未満・・・18.0トン 隣り合う車軸の軸距が1.3メートル以上かつ隣り合う車軸の軸重が9.5トン以下・・・・19.0トン 隣り合う車軸の軸距が1.8メートル以上・・・・20.0トン |
輪荷重 | 5.0トン |
最小回転半径 | 12.0メートル |
ここで気を付けてもらいたいのが二つあります。
1つ目はこの制限値のうち、一つでも超えれば許可が必要になることです。他のすべては制限値の範囲内なのに幅が5センチ超えていたという場合も許可は必要になります。
2つ目は重さです。総重量は荷物を積んだ状態での重さになります。そのため車検証では車両重量が制限値の範囲内でも荷物を積んだ状態は21トンだった場合は特殊車両として扱います。
どのような種類の車が特殊車両に該当するのか?
では、一般的にどのようなパターンがあるのでしょうか?これに関しては経験を積むといろいろな車両があるんだと驚かされます。
多いところではトレーラー、海上コンテナ、クレーン車、ポールトレーラなどでしょう。トラックも特殊車両じゃないかと思う人も多いと思いますが、一般的にトラックは製造の段階で特殊車両に該当しないぎりぎりのラインを保ちますので特殊車両には該当しないことがほとんどです。
そもそも”許可”とは?
では、”許可”とは何なのでしょうか?少し難しくなりますが、行政法上、原則的に禁止していることに、基準を満たした場合に禁止を解除することをいいます。
本来は日本国民には強力な自由が認められていますが、なんでもかんでも認めてしまうと無秩序状態になってしまいますので”許可”という制度があるのです。
なぜ許可が必要なのか?
では、なぜ特殊車両通行許可が必要になるのでしょうか?
一般的に、道路は公共のものです。つまり、できる限り多くの人に長い期間安全に利用してもらうためにあるのです。
しかし、たとえば重量オーバーの車両が通行することで道路にひび割れが入ったり、長さがオーバーした車がじゃんじゃん通行したら一般の車は迷惑でしょう。交通渋滞がおこり、経済に及ぼす影響もばかにはできません。
制限値を超えるような大型車はひとたび事故を起こしたら重大事件になります。そのような場合にも許可制度があることで行政側としては全体像を把握しやすくなるのです。
特殊車両通行許可の全体像
では、ここで特殊車両通行許可の全体像をざっくりと説明します。中には例外があるものもありますが、ここでは面倒くさいですし、論旨とはずれるのでとばします。
許可の単位
許可は車両、経路ごとに申請します。似通っているような車両の場合は包括申請が可能ですが、軸種が同じでないといけません。また、経路ごとに審査するので経路も一つ一つ検討する必要があります。
許可の期間
一度許可になると一般的には許可期間は2年になります。そのため2年を超えてその経路を通行しようという場合は更新しなければなりません。
また、一般的には許可期間は2年間ですが、条件によっては1年だったり、もっと短い期間である場合もあります。
許可の費用
許可申請には審査費用が必要になります。例外がありますが、一般的には1経路ごとに200円です。片道が1経路なので往復で2経路、車両の数ごとに計算しますので1つの同じ経路を2台で通行しようとする場合は往復で4経路分になります(片道×2×2台分)。
手数料に関しては、
を参考にしてください・
申請するにはどうすればいいの?
申請窓口
申請する窓口は道路管理者といって、その道路を管理している公共団体になります。国道であれば国、県道であれば県、市道であれば市の管理事務所になります。
最近は各公共団体の横の連携が取れているので、たとえば市道→県道→国道→市道ととおる場合、国に申請しても県に申請しても市に申請しても構いません。
実際には、たとえば市に申請しても審査の時に国や県とウラでは連携しています。このことを個別協議といいます。
申請に必要なもの
一般的には
・特殊車両通行許可申請書
・車両に関する説明書
・通行経路表
・経路図
・自動車検査証の写し
・車両内訳書(包括申請の場合)
が必要になります。最近はオンライン申請がおおいので、インターネット上で申請ができます。インターネット申請は窓に必要事項を打ち込むだけで申請書にしてくれるので大変便利ですが、打ち込むのはそんなに簡単ではありません。
審査期間
行政の審査期間は標準処理期間と言って大体このくらいの期間で結論を出します、という日数を定めています。
そして、特殊車両通行許可は標準処理期間は3週間となっていますが、最近は窓口がパンク状態で3週間で許可が出ることはほぼないと思っていいでしょう。1か月から2か月、長いときはもっとかかりますので早めに申請しましょう。
申請するには?
実際のオンライン申請の画面
申請には、実際に窓口に申請書を持って行く窓口申請とインターネット経由のオンライン申請の二つになります。
ただ窓口申請でも実際に審査に入るタイミングはオンライン申請と変わりませんし、窓口に”行く、並ぶ”わずらわしさがないのでほとんどはオンライン申請になります。
もちろん企業や個人が自分で申請するのもいいですが、オンライン申請でもそれなりに難易度は高いですし、慣れるまでは何か月もかかります。そのため私のような行政書士が代理で申請することがほとんどです。
オンライン申請に興味がある方は
のページをご覧ください。
許可を取らないとどうなるか?
では、実際に許可を取らないとどのような罰則があるのでしょうか、まずはざっくりとみてみましょう。「ええっ!こんなことになっちゃうの!?」と言わずにまずは流し読みしてください。
1.一般的制限値に関する違反
法令で定められている一般的制限値(幅・高さ・長さ・重量等)を超える車両を無許可で通行させた者、または許可内容もしくは許可条件に違反して通行させた者には、30万円以下の罰金が科せられます。
また、道路管理者の措置命令に違反した者に対しては、6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金が科せられます。
2.トンネル、橋等の制限に関する違反
道路標識によって通行を禁止又は制限しているトンネル、橋、高架の道路等で、その道路標識に表示されている制限値を超える車両を無許可で通行させた者、又は許可内容や許可条件に違反して通行させた者に対しては、6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金が科せられます。
3.幅等の個別的制限に関する違反
幅等の個別的制限基準に対する措置命令に違反して車両を通行させた者には、20万円以下の罰金が科せられます。
4.特殊車両通行許可証の備付け義務違反
特殊車両の通行許可証を車両に備え付けずに通行していた者には、30万円以下の罰金が科せられます。
5.両罰規定
法人の代表者又は法人もしくは人の使用人、その他の従業者が上記の1~4の違反行為をしたときは、違反行為を行った者に罰則が科せられるほか、その法人又は人に対しても同様の罰則が科せられます。
但し、違反行為を防止するため、業務に対し相当の注意及び監督が尽くされたことの証明があったときは、その法人又は人の責任は免除されることがあります。
罰則の実態
いかがでしょうか?普通はこの罰則規定をよむとげんなりするとおもいます。私が運転手の立場だったら「じゃどうすりゃいいんだよ!」となるでしょう。
しかし実際には、取り締まりがあって違反がばれると即罰せられるというものではなく、口頭での注意や指示があり、それでも是正されない場合は罰せられる、ということが多いようです。
な~んだ、じゃあ注意されたらそのとき許可を取ればいいじゃん
と言っているあなた。そんなのダメです。重大事件・事故であれば注意を待たずに処分ということもあり得ますし、法律違反に「たら・れば」はありません。
先ほども述べましたが取り締まりは年々厳しくなりますからいつ処分されても文句は言えないでしょう。
もしあなたの会社の車両がこの記事を見て特殊車両に該当すると思うことがあればまずは車検証を見て確認しましょう。
まとめ…心配であれば、専門家に相談しよう
いかがでしょうか。特殊車両通行許可の全体像が少しはわかってもらえたと思います。
耳が痛い話かもしれませんし、面倒かもしれませんが、まずは許可はとらなければならないものなのです。特殊車両が道路を通行するのは実は禁止されているものですし、禁止するにはそれなりの理由があるということです。
大型の車を運行させるということは、一度に大量のものを運ぶことができると同時にいざ事故が起きれば簡単なことで重大事件に発展する可能性を秘めています。
道路は国民共有の財産です。なんでもかんでも通行していいよということになれば大型車が無秩序に基盤の弱い道路を通行してあっという間に使い物にならなくなるかもしれません。
もしあなたに少しでも不安があるのであれば、あなた自身で勉強することももちろん大事ですが、まずは特殊車両通行許可に詳しい専門家に相談することが近道でしょう。そのうえでどうすればいいのかを判断しましょう。
一般的に、特殊車両通行許可の専門家は行政書士です。もちろん、私の事務所に相談してくれても大丈夫です。相談に関しては料金はかかりません。どうぞお待ちしています。